COVID-19(新型コロナウイルス)感染症下での歯科受診について

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まだまだ感染の心配をぬぐえない日々が続きますが、マスコミ各社の連日の統一性のない報道、SNS等のネットによる人づて情報の拡散により、正しい情報も歪曲されて伝えられているように感じます。
 その中には皆様の健康被害を生じかねない誤報が散見されるようになりましたので、新型コロナウイルス感染症下での歯科受診について、お知らせしたいと思います。

質問)
一部メディアやネット情報では「歯科医院を受診すると新型コロナウイルスへの感染リスクを高める。」と伝えています。本当でしょうか?

答え)
歯科治療時の新型コロナウイルス感染リスクは他の社会活動と比べてリスクが 高いとは言えないと思います。このような誤報道、SNS等のネットによる誤情報の背景には2つの理由が考えられます。1つはウイルス感染への理解不足、もう1つは歯科医院で日常行っている院内感染対策※1を知らないということです。 しかし、この社会状況で歯科受診を躊躇することは当然のことです。ご不安であれば、かかりつけ医とご相談のうえ、治療を延期されることも決して否定はしません。

質問)
「新型コロナウイルスは未知のウイルスだから怖いのでしょうか?

答え)
解明されているところもあります。
1) 伝播様式は ①飛沫感染 と ②接触感染です。 空気感染はしないと言われています。これらをしっかり抑えれば予防は出来ます。

2)もう一つ可能性としてエアロゾルによる感染があげられています。エアロゾルとは、気体中に浮遊する微小な液体または個体の粒子と周囲の気体の混合体を言います。補足として“エアロゾル感染”という専門用語はありません。

3)8~9割が軽症、高齢者・糖尿病、高血圧など持病がある人が重篤化しやすく、死亡する例もあることです。子供の発症はごく稀です。

4)アルコール、熱、酸性(pH5~6)に弱いと言われています。

質問)
厚労省からの緊急性がある治療以外は延期するよう通知があったと聞きました。

答え)
4月6日に厚労省からの歯科医院の留意事項3つの内の一つに、「歯科医師の判断により、応急処置に留めることや、緊急性のないと考えられる治療については延期することなども考慮すること」と通知がありました。これは強制ではなく歯科医師の裁量権にゆだねられています。しかしこれを拡大解釈して、マスコミ、ネットメディアなどが、厚労省は「歯科医院では緊急性の高い治療以外は延期しなさい」と通知を出したように伝えられました。これが患者様が診療を控える大きな原因の一つになったと思われます。

《4月6日厚労省通知より》
(2)診療室の定期的な換気を実施するとともに、診療の内容に応じて、感染リスクを減らすための対策を適切に行うこと。なお、歯科医師の判断により、応急処置に留めることや、緊急性がないと考えられる治療については延期することなども考慮すること。

質問
緊急性を要する治療しか行えないのでしょうか?

答え)
上の疑問でお伝えしたように、そのような事はありません。

質問)
歯科治療中に大量のウイルスを浴びている事は事実でしょうか?

答え)
事実ではありません。
他の社会活動と比べても歯科治療中にウイルスを浴びる(暴露)事は少ないと考えられます。新型コロナウイルスの感染経路は、「接触」と「飛沫」です。接触感染については、歯科医院で行なわれている院内感染対策(機器の滅菌、消毒、交換)で予防することができます。歯を削る際の「水しぶき」でウイルスが撒き散らされ、これを浴びることで感染するのではとの不安もあると思います。
この「水しぶき」により舞い上がる水霧を「エアロゾル」※2と言いますが、エアロゾルのほとんどは器具から出た水、削片、唾液ですから、これに含まれるウイルス量は、くしゃみや咳により飛沫する唾液に含まれるウイルス量と比べても非常に少ないと言えます。また飛び散る範囲は狭い範囲に限定されます※3し、それらを強力に吸い取るバキュームもありますので、エアロゾルを発生し暴露※4する可能性はほぼ否定できると考えます。現に歯科で発生したエアロゾルで感染した報告はなく、他の感染症においても現時点でそれを証明したものはありません。

質問
報道によると歯科医院で感染しやすく・歯科医療従事者が一番感染しやすい職業なのでしょうか?

答え
ニューヨークタイムズの記事※5を、誤って解釈した報道が原因と言えます。
グラフ(参考資料グラフ1)を使い歯科医師・歯科衛生士が、とくに新型コロナウイルスに感染しやすいハイリスクな職業であると記載したことが発端になっています。これをSNS上で、歯科医院の来院者が感染しやすいとも言われるようになり、その後マスコミが大きく報道し日本中に流布されました。
その記事とグラフを確認すると、歯科医師らが新型コロナウイルスに感染、発症した人数の統計を示したものではなく、「感染者との接触頻度」と「感染者との距離」だけで職業別感染率を推定したグラフに過ぎないことがわかります。
またグラフには、歯科医師らが常時、マスク、ゴーグル、グローブをしている、使用器具は滅菌、消毒、交換している、特定できる患者様を診るため新型コロナウイルス感染者との接触頻度は低い、ことなどの要素は全く加味されておらず、現実離れしたデータであると考えられます。

質問
治療を中断することによるデメリットはありますか?

答え
1) 歯の痛みを我慢すると、食事が摂れなくなり、体力・免疫が落ちてしまいます。

2) 糖尿病や人工透析中など持病がある方は、歯周病の悪化が全身状況の悪化につながる可能性が高くなります。

3) 口の中が不衛生だと、細菌性の肺炎リスクが上がり、新型コロナウイルス性肺炎に罹患した際、重症化しやすいことが知られています。

4) 介護現場等での口腔環境の悪化は、特にリスクを高めます。

また、検診とメインテナンス(定期検診)は目的・内容が違います。検診は虫歯・歯周病の有無、進行を調べるだけです。メインテナンスとは虫歯・歯周病を進行させないため歯科医院で計画的に維持管理すること、計画的な治療の一環です。
今は歯科医師の判断で延期する治療もありますが、治療・メインテナンスの継続・延期はご自身で判断なさらずに、ぜひ「かかりつけ医」にご相談ください。

参考文献
※1
:院内感染対策, 小林隆太郎, 日本歯科医師会雑誌第71巻第6号別冊, 平成30年9月
※2
日本エアロゾル学会ホームページより(http://www.jaast.jp/new/about_aerosol.html)
※3
Guidelines for Infection Control in Dental Health-Care Settings 2003, William G. Kohn, D.D.S., Amy S. Collins, M.P.H., Jennifer L. Cleveland, D.D.S., Jennifer A. Harte, D.D.S., Kathy J. Eklund, M.H.P., Dolores M. Malvitz, Dr.P.H., CDC, December 19, 2003
※4
歯の切削に伴う飛散粉塵濃度と口腔外バキュームの位置による除塵効果, 大橋 たみえ, 石津 恵津子, 小澤 亨司, 久米 美佳, 徳竹 宏保, 可児 徳子, 口腔衛生学会雑誌p.828-833, 2001年51巻5号
※5
The Workers Who Face the Greatest Coronavirus Risk, Lazaro Gamio, The New York Times, March 15, 2020